絶望ノート
歌野晶午
・文学賞受賞、候補歴
- 1995年 – 「水難の夜」で第48回日本推理作家協会賞(短編および連作短編集部門)候補[3]。
- 1997年 – 「プラットホームのカオス」で第50回日本推理作家協会賞(短編および連作短編集部門)候補[4]。
- 2004年 – 『葉桜の季節に君を想うということ』で第57回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)受賞[5]、第4回本格ミステリ大賞(小説部門)受賞。
- 2008年 – 『密室殺人ゲーム王手飛車取り』で第8回本格ミステリ大賞(小説部門)候補。
- 2010年 – 『密室殺人ゲーム2.0』で第10回本格ミステリ大賞(小説部門)受賞。
- 2012年 – 『春から夏、やがて冬』で第146回直木賞候補。

読みやすさ ⭐⭐⭐⭐
満足度 ⭐⭐⭐⭐⭐
予想外の結末 ⭐⭐⭐⭐⭐
推理小説作家で、多くのミステリー小説を執筆している歌野晶午さんの作品の1つである『絶望ノート』
今回は絶望ノートのネタバレ、内容解説を行っていくので
まだ読んでない人は見ない事をオススメします!
主な登場人物
・大刀川照音(たちかわ しょうおん)
→勉強も運動も並以下で上ルックスも悪く、是永に目を付けられ、いじめに遭っている
・瑤子(ようこ)
→照音の母親
ひょんなことから、息子の引き出しから『絶望ノート』という日記を見つけ、息子がいじめに遭っていると知る
・豊彦(とよひこ)
→照音の父親
ジョンレノンへの憧れが強く、髪形や服装も真似ており、瑤子と結婚した理由や照音の名前の由来もジョンレノンから来ている
・是永雄一郎(これなが ゆういちろう)
→照音のクラスメイトでいじめの主犯格
明るく活発で体格もよく、クラスのリーダー的存在
・国府田夏美(こうだ なつみ)
→照音のクラスメイトで可愛く、照音が気になっている女の子
・久能聡(くのう さとし)
→照音のクラスの担任の先生
顔立ちが良く女好きで、教師らしからぬ風情をしている
・来宮和樹(きよみや かずき)
→照音のクラスの副担任
熱血教師のような雰囲気で生徒からの信頼も厚く、照音のことを気にかけてくれている
簡単なあらすじ
→『神様どうかぼくにしあわせをください』
中学2年の照音はいじめられていた。
そんな苦しみへの救いを求めて『絶望ノート』と名付けた日記帳に日々、心の叫びを書き連ねていた。
彼はある日、頭部大の石を見つけ、それを『神』とし自らの血を捧げ、いじめグループの中心人物、是永の死を祈る。
結果、是永は忽然と死んだ。
しかし、収まらないいじめに対し、神に次々と級友の殺人を依頼する。
生徒の死について、警察は取り調べを始めるが……。
まず本書の重要な部分として、神様『オイネプギプト』の力によって照音をいじめていた是永達が怪我や死に至ったのかという点についてですが、
もちろんこれは神の力ではなく人の手によって起こった事件でした
本書では計4人の人物が最終的に死んでいます
これらは一体誰がどんな理由で引き起こしたのでしょうか……
物語の真実
①庵道の怪我
→万引きを強要し罪を照音1人になすりつけたのが庵道で、照音がオイネプギプト様に制裁を願っていた1人でした。
しかし、実際に庵道を怪我に追いやったのは照音の母である『瑤子』でした!
照音の日記を読み、万引き事件の真相を知った瑤子は庵道を問い詰めるつもりで後を付けたが、寸前のところで憎しみや怒りの感情が込み上げ、階段に突き落としてしまった。
②是永雄一郎の死
→照音がオイネプギプト様に制裁を一番強く願っていたのが、いじめの主犯格である是永でした。
実際に是永を殺したのはクラスの担任である『久能先生』でした!
しかしそれを裏で操っていたのは照音の父である『豊彦』で、豊彦もまた照音の日記を見ており、息子をいじめから救うため、そして威厳を取り戻す為に是永に天罰を下すことを決意しました。
豊彦は久能先生を女子生徒への淫行のネタでゆすり、『バラされたくなければ、是永を殺せ』と指示し豊彦の計画の元、是永は死んでしまった。
③国府田夏美の死
→夏美にノートの内容を見られ、自首しないと是永殺害の疑いで警察に突き出すと言われた照音は、オイネプギプト様に夏美の記憶を消して下さいとお願いする。
日記帳の存在が世間に知れ渡ると照音が生きづらくなると思った豊彦は、計画を阻止しようと久能先生を使って夏美を強姦させ、照音の事以外に目が向くように仕向けたが、最中に正体がバレてしまい、豊彦の意思とは別に久能先生は夏美を殺してしまった。
④久能先生の死
→久能先生については唯一、照音が制裁や殺意の願いを持っていない人物でした。
事情聴取を受けた際に、夏美の体の一部から加害者の皮膚片が採取されたと聞いた豊彦は、警察が久能先生に辿り着き自分に捜査の手が及ぶと危機感を抱き、自殺に見せかけ久能先生を殺してしまった。
⑤豊彦の死
→豊彦もまた、父親でありながら照音が神に死を願った人物でした。
崇拝するジョンレノンの命日の日に車に轢かれ死んだ豊彦でしたが、実際に死に追いやったのは照音の副担任であった『来宮和樹』でした。
来宮先生も学生の頃に名前でからかわれていた過去があり、『和樹』という名前に変える前は『樹里杏(ジュリアン)』という名前でした。
それもそのはず、なんと来宮の生みの親は豊彦であり樹里杏もまた、ジョンレノンに関する名前でした。
自分と同じ境遇を持つ弟である照音のいじめをノートで見て知った来宮は、全ての根源はダメな父親である豊彦であり、豊彦を照音から引き離す事が弟に出来るせめてもの手助けだと思い、豊彦を殺す事を決意する。
そして酒を飲ませ酔った豊彦を、来宮は車道に突き飛ばすのであった。
照音の為にと動いた来宮でしたが、結果としては照音の苦しみを言い訳にして自分の父親に対する復讐を果たしただけでした。
⑥照音へのいじめ
→実は照音は全くいじめられていませんでした!!
この物語の1番の衝撃は照音へのいじめ、『絶望ノート』の内容がデタラメでありフィクションだったことでしょう。
照音はいい歳してジョンレノンの真似事し、働きもせず家族に迷惑をかける父親、豊彦が嫌いでした。
また、仕事の事でかまってくれず自分の事を愛しているか分からない母親、瑤子の事も嫌いでした。
一般的な家庭のような生活を送りたかった照音は、これらの不満は自分が両親に愛されてないからだと感じる。
そして『絶望ノート』といういじめの被害を受けている架空の日記をわざと両親に見られるようにし、自分への気持ちを調べる事にしたのでした。
前半と後半のイメージ
本書では物語の前半と後半で人物のイメージが180度変わります。
その代表的な人物を簡単に紹介したいと思います!
・大刀川照音
→前半は日々いじめを受けており、痛々しく可哀想な印象でしたが、後半は全ての事件の元凶で勝手な思い込みで皆を振り回した憎い奴
・是永雄一郎
→前半はいじめの主犯格で照音を身体的にも精神的にも追い込んだ嫌な奴でしたが、後半は照音の友達で鬱陶しく感じるほどのいい奴
・豊彦
→前半は照音の事には無関心でしたが、後半は照音の事を気にかけ1人の親として照音の事を見ている
といったように、それぞれ物語の前半と後半でイメージが変わっており、その変化も本書のおもしろいポイントとなっています!
読んだ感想
→とにかく作者の仕掛けに騙された!!
神の力でなく、親が照音の為に殺していたという所は話の展開的に読めるが、日記をずっと読んできた読者にとってそれ自体がダミーは本当に衝撃でした。
最初と最後で登場人物のイメージがガラッと変わるが、いい意味でここまで主人公への感情が天から地にへと落ちることは中々無いと思います。
照音が何気なく書いた虚言の日記のせいでお父さんやお母さん、来宮先生が罪を犯し巻き込まれ死んだ是永や国府田さんの事を考えると、まさに『絶望』の物語でした😨

絶望ノート (幻冬舎文庫)
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