【ネタバレ】降田天『偽りの春』考察を含む内容徹底解説!

ネタバレ
スポンサーリンク

偽りの春

降田天




読みやすさ ⭐⭐⭐⭐

満足度 ⭐⭐⭐⭐⭐

容疑者の気分 ⭐⭐⭐⭐⭐








2014年に『女王はかえらない』第13回『このミステリーがすごい!』大賞の大賞を受賞し、ミステリー作品に定評がある降田天さん


このページではそんな降田天さんの作品の1つである『偽りの春』ネタバレ、内容解説をおこなっていきます!!

未読の方は1度読んでからご覧ください。





本書では元刑事の訳アリ警官『狩野雷太』が絡む

①鎖された赤

②偽りの春

③名前のない薔薇

④見知らぬ親友

⑤サロメの遺言 の5つの物語で構成されています

それぞれの物語について解説していきたいと思います!!






スポンサーリンク

鎖された赤


→大学生の宮園尊は空き家になった祖父の家で自分の欲望を満たしてくれるであろう蔵を発見する。

その欲望とは、薄暗い部屋で赤い着物を着た少女を世話することで、幼い頃から何故かその映像が頭にチラつく尊はそんな映像に性的欲望を抱いていた。

そんな欲望を抑えきれず、尊は少女を誘拐し蔵に監禁するが、尊の父と祖父と食事に行った際に蔵の鍵を失くしてしまう。

最後の頼りとしてやむなく相談に行った交番で、狩野に少女監禁を見抜かれ尊は逮捕されてしまう。




真相

→鍵を失くしたことで警察に捕まってしまった尊ですが、実は鍵を持っていたのは尊の祖父であり、蔵を作った藤木でした。

尊が逮捕された後、蔵の中で日記が見つかります。

その日記には、紅子と呼ばれる赤い着物を着た幼児が非人道的な扱いを受けていたことが日記に記されており、その日記を書いたのは尊ではなく、祖父の藤木で紅子とは幼い頃の尊の事でした

藤木はおぞましい欲望を尊で満たしており、尊は祖父から受けた苦痛を無意識に記憶から消していたが自分自身の映像が頭に残っており、祖父と同じ性癖を持っていた。

そして認知症となった祖父でしたが蔵への執着だけは残っており、意図的か無意識か分からないが尊から鍵を奪ったのでした。





タイトル考察

赤=紅とも取れるので、鎖された赤というのは祖父によって囚われていた尊は示しており、

また、赤には『興奮』という連想するワードがあるので、抑えられていた尊の性的欲求をも示しているのだと思いました。







スポンサーリンク

偽りの春


→老々詐欺グループのリーダーだった光代はある日、騙し取った金を仲間に持ち逃げされてしまう。

さらに追い打ちをかけるように『過去の犯罪をバラされたくなければ、一千万円用意しろ』という脅迫文が届く。

まとまった金を貯めていた光代はその金を元手に逃げることも考えたが、隣の部屋に住む香苗の息子の波瑠斗のそばにいたい気持ちが勝り、一千万円を老人宅から強奪することを選ぶ。

なんとか一千万を奪う事が出来た光代であったが、帰りのバスを待っている途中に狩野に声を掛けられ、警察に悪事がバレてしまうのでした。




真相


→光代は一千万円を用意しろという脅迫文がきっかけとなり、狩野に捕まってしまったのですが、脅迫文を送った人物は光代が仲良くしていた隣の住人の『松野香苗』と恋人の『古賀伸也』でした。

光代が住むアパートの壁は驚くほど薄く、隣の部屋の会話は筒抜け状態でしたが、高齢であった光代はそれに気づかず仲間と詐欺の話し合いをしていた。

光代が金を持っていると知った2人は、光代に脅迫文を送ったのでした。




タイトル考察


→名前などを変え、嘘で固められた光代。

波瑠斗に自分の事を隠し続けた光代。

そんな生活に終止符を打った春の季節を示しているのだと思いました。






名前のない薔薇


→何度も逮捕されながらいまだに泥棒を続けていた絵坂祥吾は、看護師の浜本理恵と出会い、恋仲に発展する。

一度は関係を絶ったがその後再開した彼女は、絵坂が浜本に頼まれて盗んだ薔薇で新種を生み出したとして、園芸家で成功を収めていた。

しかし自身の人気が落ちてきた彼女は、再び絵坂に薔薇を盗むことを要求する。

絵坂から薔薇を受け取ったその2か月後、浜本の元に警察が訪れる。

絵坂に薔薇を盗むよう要求したその家に、剪定バサミが落ちていたと。




真相


→絵坂がわざと証拠を残したと思っていた浜本でしたが、実は絵坂は何も盗んでおらず、浜本が受け取った薔薇はかつて、絵坂の母に送った浜本の父が作った薔薇でした。

幼少期から父に薔薇の栽培を手伝わされていた浜本は、いつしか自分も薔薇に執着するようになっていた。

しかし、父の作った薔薇を見る事で思い出します。

自分はただ、自由に薔薇を作って楽しみたかったのだと。

後日、絵坂が働く店へとやって来た浜本は看護師に復帰することを告げ、その姿は心なしか、以前よりも魅力的に見えるのでした。




タイトル考察


→『絵坂が盗んだ薔薇』『浜本の父が作った薔薇』には品種登録がされていませんでした。

つまり『名前のない薔薇』でした。

そういった意味で、物語の大事なキーワードを示しているのだと思いました。






見知らぬ親友


→夏希に弱みを握られたことがきっかけで一緒に暮らすことになった渡辺美穂は、日に日に夏希へのストレスが溜まっていた。

うるさい夏希を睡眠薬で眠らせた後、美穂はちょっとした報復として、スマホの画面に『殺す』という殺害予告が表示されるように夏希のスマホを設定する。

その翌日、夏希は何者かに駅のホームから突き落とされるという事故に遭う。

事故の直前、夏希のスマホには『殺す』という文字が表示されており、美穂は警察に疑われることになる。

そこで美穂は夏希の本当の気持ちを知る。




真相


→何者かに突き飛ばされ駅のホームから転落した夏希だが、その犯人は美穂が気になっていた同級生『梨本英也』だった。

予備校生の頃から梨本にしつこく言い寄られていた夏希は、今度こそ関係をはっきりと断ち切る為に、梨本からの誘いを承諾する。

駅で待っているとスマホの画面に『殺す』という通知が届き、それが美穂の仕業だと気づいた夏希は体調が悪くなり、家に帰ろうとした。

それを目撃した梨本がショックを受けた、あるいはあの夏希にバカにされた腹いせか、夏希を突き飛ばしたのでした。

そして夏希は自分を利用しているだけだと思っていた美穂でしたが、実はその真逆でした

梨本の事が気になっている美穂の為にストーカー被害の事を相談しなかったり、お金に苦労しているから善意で家賃を負担したり、風俗の事を誰にも言わなかったりと、全ての行動は本当に夏希を思ってこその行動でした。

しかし、人付き合いが苦手な夏希は美穂が自分を嫌ってないか、あえて相手を試すようなことを行い、それが2人の関係に亀裂を生んだのです。

その後、初めて本音を言い合った2人は、また1から友達としての関係をスタートしていくのでした。




タイトル考察


→美穂と夏希は同じ大学に通い、さらに一緒に暮らし、はたから見たらとても仲の良い親友のような関係でした。

しかし、実際は2人の心はすれ違い、相手の考えていることが何も分かっていませんでした。

そんな2人の関係性を示しているのだと思います。






サロメの遺言


→人気声優、詩杜エミリが自宅で服毒による中毒死で死んでいた。

容疑者はエミリが声優として出演した作品の作者である。高木カギこと大久保恭。

彼の自宅からは服毒に使われたと思われる青酸カリが発見され逮捕されるが、黙秘を続け、狩野雷太を連れてくることを要求する。

なぜ、詩杜エミリは死んだのか!?

なぜ、大久保は狩野を呼んだのか!?




真相


→本書の物語でこの『サロメの遺言』が最も複雑だったと思います。


まず、エミリを殺したのは大久保ではなく、エミリ自身の自殺でした。


大久保はかつてエミリと交際していた。そして自身のとある秘密を話してしまう。

その後2人は別れたが、声優としての人気が下降線へとたどっていたエミリは秘密をバラされたくなければ、大久保のアニメ化される作品である『オニヨメ!』の主役をくれと懇願する。


エミリの脅迫に対処するため、大久保はエミリの枕営業の証拠を取ろうとカメラを仕掛けるが、エミリはせめてもの腹いせか、大久保の前で自殺するのでした。




エミリの死に関して無罪の大久保はなぜ、自分が疑われるような行動をとったのか??

それは大久保の秘密である『殺人犯の息子』が関係していた。



大久保の旧姓は羽瀬倉であり父親は、渡辺美穂、米原夏希が在学していた学校の友達である『吉田一紗』を殺害、その後、彼女が使っていたアトリエごと遺体を売却し、自殺した学校の教授『羽瀬倉幹雄』でした。


当時、羽瀬倉幹雄の取り調べを行った刑事が『狩野雷太』であり、父親の冤罪、そして行きすぎた取り調べのせいで父が自殺したと思っていた。

大久保の目的は警察の『冤罪の被害者』になる事


自身が冤罪となり世間から注目を浴びれば、父親の事件も再度見直されると考えての行動でした。

しかし、羽瀬倉幹雄が吉田一紗を殺害したのは紛れもない事実です。





吉田一紗殺害の真実


→吉田一紗は芸術家として類をみないほどの天才であり、自身も芸術家の1人である幹雄はそんな一紗に嫉妬しながらも称賛し、彼女を指導していた。


そんな中、幹雄は彼女のアトリエで、卒業制作である『師弟愛』『同志愛』『恋愛』が題名の3枚の油絵を一紗に見せられる。


しかし作品はまだ未完成であり、一紗は先生の手によって完成すると言い幹雄に金槌を握らせる

金槌を持った幹雄は何かに憑りつかれるように、一紗の腕を金槌で叩きつけると一紗は告げた。


テーマは『先生の心』だと


一紗は見抜いていました。幹雄の尊敬や狂気とも感じるこの腕に対する思いを。


芸術家として彼女の意思や作品を完成させるために、幹雄は彼女の首を絞め殺害、そして自分自身の一紗の腕に対する思いを悟られぬよう、絵や彼女の遺体を焼き払います。

行き過ぎた2人の芸術家としての感性がこの事件を生んだのでした。



その後、狩野はどんな形であれ父親を死なせてしまった事を大久保に謝罪し、過去の過ちに自問自答しながら再び、交番勤務へと戻っていくのでした。






タイトル考察


→まずサロメとは何かというと古代パレスチナに実在したとされる女性であり、調べると女性が男性の生首をお盆に乗せて持っている絵画が出てきます。





いくつかの諸説がありますが、その絵画の内容を簡単に説明すると、


ユダヤ王のヘロデは王女サロメにいやらしい目を向けていた。

それに耐えきれなかったサロメは、王に嫌われ牢に幽閉されていた預言者ヨカナーンに恋をしたが、拒まれてしまう。

愛を拒まれたサロメは必ずヨカナーンに口づけすると誓います。

ヘロデ王はある時、サロメにダンスを要求し、ダンスに感激した王がお礼として『お前の望むものを何でもやろう』と言います。

サロメは『ヨカナーンの首が欲しい』と要求し、約束を破るわけにはいかない王はヨカナーンの首を斬り、お盆に乗せてサロメに献上するのでした。

そして運ばれてきたヨカナーンの唇にサロメは口付けし、それをみたヘロデ王はサロメを殺したのでした。




幹雄は『サロメは私だ』と言っており、一紗に特別な感情を持っていたため、

幹雄=サロメ一紗=ヨカナーンに例えていると予想できます。


一紗の腕に愛情や憎悪とも取れる感情を抱いていた幹雄は、サロメがヨカナーンの首を斬らせたように、幹雄は一紗の腕を潰した


そしてサロメがヨカナーンの唇に口付けしたように、幹雄は一紗の腕を模した石膏像を作った。

サロメは最後には殺されてしまうが、日本の法律では死刑にならない

そこで幹雄は、サロメの生き方に近づくように自ら命を絶ったのでした。

狩野雷太は幹雄の『去るのは私だ』という言葉を最後に聞いており、彼を死なせてしまったことを後悔しています。



『サロメの遺言』とはつまり、羽瀬倉幹雄の芸術家としての生き様だと思いました。






感想


→とにかく狩野雷太のキャラが素晴らしいと思います!!

普段のへらへらした雰囲気からの鋭い洞察力のギャップはたまりません。

前半2つでは狩野が言葉巧みに犯人の嘘を暴いて事件を解決していき、こういった流れの短編集かと思いましたが、狩野の交番勤務になった理由や物語がリンクするなど、ストーリー性もあって面白かった!

個人的には『見知らぬ親友』『サロメの遺言』の2つがお気に入りで、弱みを握られたと思って仲の良い振りをする美穂の気持ちも、相手が本当に自分の事が好きかあえて意地悪する夏希の気持ちも痛いほど分かる。

サロメの遺言は内容が難しかったが、一般人には理解できない芸術家の感性と中世の歴史が絡んでいて、物凄く読みごたえがあって楽しめました😆


偽りの春 神倉駅前交番 狩野雷太の推理 (角川文庫)

コメント

タイトルとURLをコピーしました